まとめ
- 『君の名は。』の中国での興行収入は2017年1月21日時点で5.74億元(約94.7億円、1RMB=16.5JPYで換算)
- 2016年に中国に輸出・上映された邦画は11本、そのうちアニメ映画は9本
- 海外映画には輸出本数、ロイヤリティ支払いの面で制限が課されている
- 2017年以降、市場制限は今後緩和される可能性、邦画(特にアニメ映画)輸出が増える可能性がある
2016年8月26日から日本で上映が始まった劇場版アニメ『君の名は。』(監督=新海誠、配給=東宝)は、空前の大ヒットを記録し続けている。2017年1月9日時点で、興行収入は229億円を突破、歴代の邦画興行収入第2位にランクインし、もはやアニメファンにとどまらず幅広い人たちに受け入れられている。
これと同時に、2016年12月2日から中国の上映でも興行収入5.74億元(約94.7億円,2017/1/21時点)に達し、2016年度に中国で公開されたアニメ映画のなかで興行収入第一位となった。
『君の名は。』の全世界の興行収入のうち中国が25%を占めており(日本60%、中国25%、その他の国および地域15%)、マーケットとして非常に重要なので、中国の映画産業との関係について概説しようと思う。
(出典:艺恩电影智库)
1.中国の映画産業の現況
まず、世界の映画興行市場(2015年,ドルベース)をみると、最も市場規模が大きいのは北米市場(US+Canada)で111億ドル。次いで中国市場で68億ドル、市場規模は世界第2位に位置する。ついでに、日本は18億ドルで世界第4位。
(出典:『Theatrical Market Statistics 2015』)
(1)中国の興行市場
中国の興行市場に焦点を当てると、2016年には457.12億元(約7542.5億円)に達した。2016年の詳細な統計はまだ得られていないため、2015年の統計に基づくと、中国で上映された映画は全体で358本、そのうち中国国産映画は278本、海外映画は80本とされる。興行収入ベースでは、国産映画は全体の約6割、海外映画は約4割を占める。上映本数ベースでは中国国産映画が全体の3/4以上にのぼるが、映画一本当たりの平均興行収入では海外映画が中国国産映画の倍以上となっている。
(出典:『2015年度中国电影产业报告』、『500亿大关前的中国电影市场』、猫眼数据を基に作成)
(2) スクリーン数、映画館数
スクリーン数をみると、2010年に6256あったスクリーン数は、2016年末には41179スクリーンに達し、世界で最もスクリーン数の多かったアメリカをついに追い抜いた。
映画館数は、2010年から2016年の間で2000軒から7853軒にまで増加した。日本と同様、中国も所謂シネマコンプレックスが主流になっている。
(出典:『Theatrical Market Statistics 2011~2015』、一般社団法人日本映画製作者連盟HP、『2015年度中国电影产业报告』、新華社報道(2016年12月31日付)、中国产业信息(2017年1月10日)を基に作成)
2.中国における海外映画の取り扱い
ハリウッド映画からインド映画まで、中国では毎年様々な国の映画が輸入され、上映されている。直近5年の間に上映された映画の内訳をみると、毎年の上映本数のうち15%から25%程度を海外映画が占めている。海外映画はレベニューシェア方式〔分账片〕(以下、RS方式)、興行権買い切り方式〔买断片,批片〕(以下、OP方式)に大別される。
RS方式は、映画の興行収入に応じて海外側と中国側の双方で収益分配を行うもので、OP方式は、中国側が海外側から中国国内での映画興行権を買い取り、海外側は中国国内での興行収入の収益分配に参加しないものをいう。
自国の映画産業保護を目的として、中国は海外映画に対して市場制限を課している。中国政府関連部門によって輸入本数が割り当てられており、RS方式は毎年34本まで許容される。製作国に明確な制限はないが、実際上殆どがハリウッド映画。34本というRS方式枠の少なさを補うのがOP方式による輸入で、OP方式に明文化された上限は設定されていないが、毎年30本から50本前後に収まっており、邦画は基本的にOP方式によって輸入されているとみられている。ただし、表面上OPであるが実際上はRSに近い形が採られている可能性もある。この点は東宝等日本国内の配給会社や上映権代理企業などしか知り得ない。
(1)輸入プロセス
海外映画の輸入及び配給を行なうことのできる中国企業は限られている。輸入する権利は、国営企業の中国电影集团公司支社・电影进出口分公司のみが有しており、电影进出口分公司が国家新闻出版广电总局へ輸入映画審査手続を担当する。そして、全国的配給を行なうことができるのは同公司の別支社・电影发行放映分公司及び华夏电影发行有限责任公司の二社のみ。
(出典:『电影行业分析报告』を基に作成)
(2)『君の名は。』の中国輸出
2016年10月4日、邦画の中国放映権代理、日本のゲームのカルチャライズ等を手掛ける日本企業、アクセスブライトが『君の名は。』の中国での配給及び配信の権利を東宝から取得したとの情報が報じられ、さらに、一か月後、中国全土で同年12月2日から上映が開始されるとの続報が入った。日本での上映から約3か月後に中国で公開されるスピード感は、これまでの日中の上映タイムラグからすると異例だ。同社は、上海アクセスブライト〔上海通耀〕という現地法人を有しており、中国の民間大手映画製作会社・北京エンライトメディア〔北京光线传媒〕と資本提携をしていることから、中国へ邦画を輸出し、上映するためのパイプがあることが窺える。
『君の名は。』は、日本では興行収入100億円を一ヶ月もしないうちに突破するほどのビッグタイトルであることから、RS方式とOP方式のどちらで中国に輸入されたかが重要だ。とはいえ、前者は一般的にハリウッド映画が主であるため、後者により輸入されたとの見方が中国国内では一般的で、さらに、北京エンライトメディアによる購入額は1900万元だったと一部の中国メディアが報じた。ただし、単なる興行権買い切りでない可能性もある。
理由は二つある。一つ目は、数十億、数百億の興行収入を見込むほどの映画を東宝及び『君の名は。』製作委員会がわずか数億円で売り切るとは思えないこと。
二つ目は、RS方式による海外映画の海外側配分比率は25%までと中国政府関連部門により定められているにもかかわらず、ハリウッド映画は現実には25%を超える配分を受け取っている事実があること。
したがって、『君の名は。』についても、規定を潜り抜けて中国企業と個別に取り決め、「まず最低保証として1900万元が支払われ、興行収入が一定額を超えたのちはRSを採用する」というような、複合型ロイヤルティ支払方式を採用していると類推する余地がある。あるいは、来年分のRS枠を前借りした可能性も考えられないではない。
(出典:『Directed by Hollywood, Edited by China: How China's Censorship and Influence Affect Films Worldwide』)
3.その他
(1)『君の名は。』の上映終了は2/2
(2)輸入、審査に関する主な根拠法規、協定
・进口影片管理办法
・电影企业经营资格准入暂行规定
・电影管理条例
・中美双方就解决WTO电影相关问题的谅解备忘录达成协议